そんな日もあるよ

そんな日もあるさー

すてきな金縛り?

 いや、映画を観たわけじゃあないんですけどね。観にいきたいと思ってはいるものの時間がなかなか無くっていまだに未見でございます。もう終わっちゃうよねー。

 じゃあなんで金縛りかと言えば、実は私、けっこう金縛りにあったことがあるんですよ。ただここ数年は金縛りになってないですかねぇ。

 初めて金縛りにあったのはたしか中学生だったかと思います。その日は特に何かあったわけでもなくいつもどおりの一日を終え、眠りにつきました。

 ・・・夢を見た。

 そこはどこかは分からないがあたりは煙が充満し明らかに燃え盛る建物のなかだった。そこに一人の武将がいた。鎧に身を固めた彼はどうやら誰かを探しているようだった。私は映画でも観るかのようにそのシーンを夢でみていた。その武将の気持ちが不思議と自分の中にも押しよせてくる。

 敵に攻められ城も燃え尽きた。もはやこれまでという状況で彼はもっとも愛する大切な人物を探していた。それは自分の娘だ。煙で視界を遮られる中、必死に娘を探している。

 彼の心は自分の娘への思いで溢れていた。無事なのか何処にいるのか、もしかして逃げのびたのか。何処だ何処だ何処だ。そんな彼の視界に人影が写る。その人影が彼に駆け寄ってくる。

“娘だ”

 喜びに溢れる優しい温かい気持ち。彼と娘はしっかりと抱き合い互いの無事を確認し喜んだ。しかし次の瞬間、この世のものとは思えないドス黒い感情が彼から流れてきた。無念、苦しみ、悲しみ、この世のありとあらゆる物を恨み呪う。

 彼は娘を刺し殺した。

 愛する娘の亡骸を抱え、全身全霊で叫び声をあげる彼の思い。まさしくそれこそが怨念と呼ぶに相応しいものだろう。

 私はもの凄い寝汗をかいて目を覚ました。いや正確には目を開けようとした。

「いやー、すげー変な夢見ちゃったな。水でも飲むか」

 そしてある異変に気がついた。

「あれっ? か・ら・だ・が、動かないっ!」

 意識はハッキリしているのだが手も足もなにもかもまったく動かない。首も動かなければ声も出せない。いろいろと試したところ不思議なことに目だけは動かせそうだった。ただし金縛り経験者はわかっていただけると思うのだが、

“金縛りの時に目を開けるのは怖い”

「目を開けた瞬間に人の顔があったらどうしよう」

 とか、

「老婆がお腹の上で正座をしてたりしてたら。。。

 なんて考えだしたら怖くて怖くてなかなか目が開けられない。とりあえず私は目を閉じたまま状況を確認した。

「手は動かない、足も動かない。首も動かない声も出せない」

 必死で声をだして家族を呼ぼうとするもののどうしても声が出せない。どうやら間違いなく動かせるのは目だけのようだ。しょうがない、もうこうなったら打つ手は一つ。

「目を開けるしかない。」

 私は恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。

「よかった」

 どうやら目の前に人の顔があったり胸の上で老婆が正座しているなんていうベタな展開ではないようだ。

「いやー、しっかし困ったな。これって動けるようになるの?」

 不安と期待が見事に外れた為、私は金縛りをちょっと楽しめる心の余裕が出来ていた。

「このまま動かなかったら明日は学校休みだなぁ、学校で “ひらくんは金縛りの為にお休みです” なーんて、超格好悪いぜよ」

 なんて思いながら油断した私は眼球をぐるりと動かしてあたりを見回してしまったのである。

「あ、あ、あれ? なんか見えるかな??」

 私の視界ぎりぎりいっぱい。うっすらと浮かんでいた。そう天井付近に真っ白な女性のうなじ部分がぼわっと浮かび上がっていたのである。

「う、うわーっ!!! ごめんなさいっ!!」

 私は声にならない悲鳴をあげ何の理由も無いのに謝っていた。まさにパニックである。

「ど、どうしよう。誰か、誰か助けてーーー!」

 と思い逆方向に目をやった私の視界に飛び込んできたものは。

「ひょえーーーーーーーーーーーーーっ!!! か、壁の中から、部屋の壁の中からなんか出てきてる、ちょっとずつ、ずずっ、ずずっ、て、あれ、頭??? 嘘、まーじで!? 頭だよ。」

 天井付近の部屋の壁の中からゆっくりと真っ黒な丸いものが少しずつ出てきていた。そいつはだんだんと姿を現してはっきりと形が確認できた。間違いなく人の頭だ。昔の侍さんなのか髪を振り乱してまさしく落ち武者風と言った感じだ。バサッと広がった黒髪を携えた首だけが壁の中から出現した。

「終わった、これは終わった。自分呪われて死ぬんや」

 生首はゆっくりと壁から出てきたかと思うと、そのまま部屋の中を漂い逆方向の壁へと消えていった。

「き、消えた!? あ、うなじも消えた。おっ! 体が動くっ!」

 生首が消えると同時に私の金縛りはすっかり解けていた。体中ものすごい汗である。サウナにでも入ったかと思うほどだ。

「いやー、恐い夢だったなぁ、あははは・・・」

 そう夢なんだよきっと。金縛りなんて夢に違いないんです。そう何がおころうと私はそれいらい金縛りは夢だったと自分に言いきかせています。

 この人生初の金縛りを皮切りに私はちょくちょくと金縛りを体験するようになった。ただ、ここまではっきりと姿を目視できるほど強烈なのはこれが最初で最後である。他は声が聞こえたり、目を閉じてる間に金縛りが解けたりとかですねえ。あー、思い出すだけでも嫌だ。

 みなさんも金縛りには気をつけましょうね。